大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和31年(う)377号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人三名を各懲役六月及び罰金五〇、〇〇〇円に処する。

この裁判確定の日から三年間右各懲役刑の執行を猶予する。

右各罰金を完納することができないときは金五〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

原審ならびに当審における訴訟費用は被告人等の連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意は札幌地方検察庁検察官検事高田正美作成名義の控訴趣意書、竝に札幌高等検察庁検察官検事高田秀穂作成名義の控訴趣意補充書に各記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

右検察官の控訴趣意(事実誤認)について

所論は被告人青井ヨシヱは、その夫である永照寺の住職被告人青井準祐及び同寺の壇家総代である被告人前川弥作と共謀の上、大蔵大臣の免許をうけないで無尽の講元となり、営利の目的をもつて反覆継続して、昭和二四年二月頃より同二六年一〇月頃迄の間に、右永照寺において約二七講につき右講の加入者高辻松次郎外約九六名の加入者より、合計約三三、二三二、六〇〇円の掛金を受け入れ相互銀行の業務を営んだものであると主張し、原裁判所が本件無尽講は主として永照寺の壇徒の人々が右寺の運営を援助するため相互の協力によつて契約された頼母子講であると解し、原判決が被告人ヨシヱの講元である営業無尽たることを否認した点に付き、原判決には重大な事実の誤認があると主張する。

よつて本件を検討すると、被告人青井ヨシヱの司法警察員及び検察官に対する各供述調書に、本件講加入者であつた柴原花子、下原政雄、中村竜雄、田中竹栄、山内タサ、高森正雄の各作成名義に係る各被害顛末書の記載、竝に原審及び当審における証人柴原花子、岡田弥重郎の各供述、その他原審及び当審において取調べた証拠を綜合すれば、被告人青井ヨシヱ、青井準祐は昭和二二年一〇月頃永照寺の敷地購入資金獲得のため元祖講なる無尽講を発企し、その後永照寺の収益を計るために無尽講十数講を発企したところ、経済界の不況のため掛金乃至掛戻金の支払不能者続出し、落札金の未払金額一、〇〇〇、〇〇〇円以上に達したので、右寺の信用の失墜を恐れ、昭和二三年末頃に至り、右被告人両名は、当時の講世話人であつた沢田末次郎、草間泰夫、大浪敬吉及び当時の壇家総代であつた被告人前川弥作と相謀り、新たに好言を用いて多数の無尽講を発企し、その初会親取金や各回の入札差金を取得して、右未払落札金の支払に充てることを企て、被告人青井ヨシヱを本件無尽講の講元とし、営利の目的をもつて大蔵大臣の免許を受けないで、昭和二四年二月頃より同二六年九月頃に至る迄の間に民自講をはじめ合計二七講につき、右永照寺において右加入者高辻松次郎外約九六名の加入者より、合計約三三、二三二、六〇〇円の掛金の受け入れをし、無尽を業とした事実を認めることができる。右認定に反して被告人前川弥作は原審ならびに当審において、共謀の事実を否認し、本件各無尽講につき単に記帳係をしたにすぎない旨供述しているけれども、右供述は前掲各関係人の被害顛末書の記載と対照して措信し難い。

被告人等及び弁護人は本件無尽講は壇徒又はその知人の相互の契約による頼母子講であつて、被告人等が営業主となり各加入者と契約した営業無尽ではないと主張するけれども、前掲各証拠によれば、被告人等は本件各講につき前記の如き落札未払金の支払に補填するために発企したにもかかわらず、その趣旨を隠蔽し、ただ本件講の落札給付金の支払の確実なこと、又高利廻りで金融上きわめて有利である旨を各加入者に強調し、壇徒以外の一般人にも直接又は間接にその加入を勧誘し、被告人等は右講金の受入れ、落札金の給付については全責任を負うべき旨を各加入者に言明していたため、寺の運営に関する援助に全く無関係な壇徒以外の多数一般人がその金融の便宜を受けるため被告人等を講責任者であると信じて右講に加入するに至つた事実、これ等一般人はその営業又は生活資金獲得のため採算を度外視して落札し、その後の掛戻金の不払をするものが続出した事実、被告人等は右掛戻金の取立をし、又前記落札未払金の支払については各講の親取金や入札差金を取得して、これを充てるばかりでなく、加入者不足の講口につき多数の架空加入者名義を作り、その名義をもつて落札金を取得してこれを前記落札未払金の支払に充てたり、別途から借り入れた金員をもつて右各講の掛金、掛戻金、落札金等の支払に充当していた事実、本件各講の企図、開始時期、加入金額、加入口数、加入者、落札者の決定、会計、及び払込金の集金等は一切被告人等に独占され、他の一般講員の関知することを許さなかつた事実を認めることができる。右認定に反する被告人等の当公判廷の供述は前掲証拠と照して措信しない。かくの如く各無尽講の内容になる加入者の氏名、その加入口数、加入金額、その信用状態等を加入者に知らせないで、講元が自由に決定し、かつ講金支払の責任を負う旨を言明して加入をすすめ、講元に講金取立の権限が認められるばかりでなく、親取金や入札差金を取得し、落札人に対する毎期所定の給付金をその責任において支弁する無尽講は、まさに講元が加入者との契約で権利義務の帰属者となる無尽講と推認しうるものであつて、これを目して講員相互の契約による頼母子講とは到底認めることができない。

被告人等は右無尽の利得は、永照寺の壇徒による寺の運営に関する援助であつて、俗に「お助け無尽」と云われていたものであつて、被告人等は営利を目的としたものではないと主張するが前記証拠によれば、本件無尽講においては、講元は第一回の講員の掛金全額を取得し、これを利得するばかりでなく、第二回以後毎回、講元は親手当金、席料、花くじ分配金等を取得し、その金額は講元の掛戻金をはるかに超過し、講元はその掛戻金とその対等額につき相殺してもなおこれを超過して毎回一定金額を利得していたことが明かであるから、被告人等が利益を得る目的で本件講契約をしていたことは明かであり、昭和二二年頃寺の敷地買収のため特にその目的を定めて開講された元祖講は格別として、昭和二四年二月発企の民自講以下本件二七講においては、金融を主たる目的として壇徒に非ざる多数一般人を加入せしめていること前記認定の如くであるから、これを目して寺への援助を目的とする右「お助け無尽」と解することのできないことはもとより当然であつて、右被告人等の主張はこれを採用しない。

然らば被告人等は共謀の上被告人青井ヨシヱを本件無尽の講元とし、本件各無尽講の損益の帰属者となり正しく営業無尽の営業者と同様の関係に立ち、営利の目的をもつて右掛金の受入れを反覆継続したものであるから、右所為は改正前の無尽業法第一条に規定する無尽及びそれと同一の内容をもつ相互銀行法第二条第一項に規定する相互銀行の業務行為に該当するものと云わなければならない。されば本件無尽につき営業無尽たることを認めず相互銀行法の適用を排除した原判決には重大な事実の誤認があり、原判決は破棄を免れない、検察官の論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三九七条第一項第三八二条、第四〇〇条但書に従い原判決を破棄し当審において更につぎのとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人等は何れも大蔵大臣の免許を受けないで三名共謀の上、被告人青井ヨシヱを講元として、昭和二四年二月二四日頃より同二六年一〇月七日頃迄の間に札幌市南七条西二丁目被告人準祐の住職である永照寺において、一定の期間を定めその中途又は満了のときにおいて一定の金額の給付をすることを約し、高辻松次郎外約九六名より合計約三三、二三二、六〇〇円をその掛金として受入れ、以て相互銀行の業務を営んだものである。

(証拠の標目)

一、被告人青井ヨシヱの司法警察員(第一回乃至第九回)及び検察官(第一回乃至第五回)に対する各供述調書

一、被告人青井準祐の司法警察員及び検察官に対する各供述調書

一、柴原花子、下原政雄、中村竜雄、田中竹栄、山内タサ、高森正雄各作成名義の被害顛末書

一、当審竝に原審証人柴原花子、岡田弥重郎の各供述

一、領置に係る帳簿二冊(原審昭和三〇年領第一三四号の一)及び月賦借用証七一通(同号の四乃至七四)の存在

を綜合してこれを認めるに十分である。

(法令の適用)

法律に照らすに被告人等の右判示所為は、相互銀行法(昭和二六年六月五日法律第一九九号として公布即日施行)施行以前の昭和二四年二月二四日より同法施行後の昭和二六年一〇月七日迄の期間に亘る所為であるが、右法律附則第二項により改正される以前の無尽業法第一条第一項の行為と右相互銀行法第二条第一項第一号の行為は同一であるから、被告人等の右所為については包括して一つの営業犯として相互銀行法が適用されるものと解すべきところ、被告人等の右判示所為は同法第三条第四条刑法第六〇条に該当するから、相互銀行法第二三条を適用し懲役刑と罰金刑を併科し、被告人三名をいずれも各懲役六ヵ月及び罰金五〇、〇〇〇円に処し、各被告人につき刑法第一八条第一項、第四項に従い右罰金不完納の場合の労役場留置の期間を定め、被告人等についてはいずれも本件犯行の動機に恕すべき情状があるから刑法第二五条第一項を適用し、この裁判確定の日から三年間被告人等三名に対する右各懲役刑の執行を猶予し、原審竝に当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条に従い被告人等三名の連帯負担とし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊川博雅 裁判官 羽生田利朝 立岡安正)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例